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とある輪廻。
ある日の探索。
パンデモニウム城にお気楽な声が聞こえてきた。
「最初こそ「1人で戦うって大丈夫か?」とか思ったんだけど、今は「俺が助けてやらなきゃ」って思う様になったわ」
金色の輝く毛並みを持った尻尾がひらひらと揺れ、持ち主の声にまるで相槌を打つかのようにラグナの目の前をかすめる。
両腕を頭の後ろで組み、のんびりとした足取りで城の中を闊歩する二人。
さっきまでもう一人ここにいた人物、スコールはつい先ほど戦った宿敵レベルのイミテーションに辛くも勝利したものの、最後に食らった攻撃に耐えきれず、デジョントラップに落ちてしまった。
この城の構造は理解しており、しばらく進めばどこかに転移されているだろうと踏んだジタンがとりあえず城の中を探してみようと歩き始め、ラグナもそれに従い、現在に至る。
さて、その途中。
「確かになー。スコールって何かこっちが守ってやらなきゃいけない気になるんだよな」
同じくラグナもお気楽な空気のまま、色合いの派手な城の廊下をきょろきょろ眺めながら進んでゆく。
ジタンにとってラグナと二人でこうして話をするのは久しぶりの事だった。
以前、ラグナがコスモスの仲間達と合流する前はよくスコールと一緒に居たジタン。その頃からスコールに対してジタンは守ってやらなきゃという気持ちになる事が多かった。彼ははじめから突き放したような言葉で仲間達と距離を置いていたが、それは表面的な特徴でしかなかった。一緒に探索に出かけ、共に過ごす時間が長くなるにつれてジタンはその事に気がつき始めた。ただ、言葉が少し足りないだけ。ただ、目的だけを追い続けているだけ。
そう思う様になってからは自然にスコールをサポートできるようになり、スコールも最初こそ「余計な事をするな」と言っていたが、今はすっかりジタンの行動を理解し、それを甘受している。
ジタンにとってそれは仲間に対しても同じ行動の一つであり、彼のモットーをそのまま言動にしたものであった。しかしそれがスコールの持つ空気を和らげてきた事だとジタンは確信している。
そうした日々の中、ジタンはすっかり「スコールを守るのは自分」だと知らぬ間に思っていた。
ラグナが合流し、スコールと共に行動するまでは。
「へぇー。俺はレディじゃないからそこまで守って庇ってって感じじゃないけどな」
いつもの口調でひょいと振り向き、ラグナを見れば、
「そうか?」
どこか珍しそうな顔がこっちを見ていた。
「そりゃそうだろ。一応男だし、戦士の一人だし」
まぁ、ちょっと危なっかしいけどな、と付け足すと、
「でもジタンってそういう感じで守ってたんじゃないのか?」
「へ?」
思わず声が上ずった。目の前の男は「何を言ってんだ?」と言わんばかりに、当たり前の事を差す様に続ける。
「俺は皆と会ってそんなに長いわけじゃないけど、でもスコールを見ればなんとなくわかった。ずっとジタンに守られてきてたんだなって」
「――」
思わず言葉を飲み込んだ。いつの間にか足を止めていたジタンに、
「ジタンはたぶんあいつの事をちゃんと理解してやれてたから、スコールもお前に任せてたんじゃないのか?」
そうなのだろうか。
ジタンとスコールとラグナ。この3人で探索をし始めてしばらく経つが、スコールの行動はあまり変わる事が無かった気がする。いつもの様に彼をサポートし、それにラグナが混じる。そんな感じだと。
しかし、ラグナはそう見ていなかったようだ。後から来た人物の方が元からいた者達の関係性をあっさり見抜く事が出来るとは聞いたことがあるが、果たしてこの事であろうか。
自分の記憶を手繰りながら考え事を続けるジタンに、ラグナも足を止め、
「俺もちゃんとあいつを守ってやりたい」
少しだけトーンの下がった声がジタンに届く。
はっとその声に己の世界に没頭しかけていた意識を戻し、ラグナの顔をまじまじと見つめる。
そこにはさっきまでの「年齢を気にせず何でも気楽に話せる仲間」としての彼ではなく、一人の保護者の様な神妙な顔つきの彼がいた。
己の右手で拳を握り、目の前で開いたり握ったりをゆっくり繰り返しながら、
「俺がそばで守って支えてやりたいんだ」
ゆっくりと握られていた手を下ろし、小さく息を吐く。
その言葉の意味をジタンは正しく理解した。
ラグナは自分の様に仲間として守るのではない。
しかし、その意味をあっさりと掴んでしまったために、一瞬胸の中に痛みが走る。
これまでは自分が守ってきていたのだ。
自分だけがスコールの気持ちを理解出来ていたのだ。
それなのに。
「そっか、ラグナはスコールが一番大事なんだな」
解ったような声でそう呟くジタン。その言葉で先程気付きそうになった痛みの原因からジタンは目をそらした。
気がついてはいけないと、ひどくそう思ったのだ。
そしてなお目覚めようとするそれを振り切るために、再び軽く伸びをしながら歩き出す。
「あ、待てって」
立ち止まっていたラグナがいつの間にか己より先に進んでいた事にようやく気付き、慌ててこちらも再び歩を進める。
先程とは全く違う話をあれこれとしながら進む二人。
そして緩やかで短い坂を上った先にある、柱の立つ少々開けた部屋にたどり着いた。
「スコール!」
黒い服に茶色の髪。
どうやら深く怪我を負っている様子はなさそうなスコールがその柱のそばに立っていた。
手の中にあった愛用の武器はすでにない。
たった今デジョンから解放されたのであろう彼がラグナの呼び声に気が付いた。
「ラグナ、ジタン」
その声に振り返れば、
「大丈夫か!怪我は?」
スコールを見つけた途端駆け出し、彼の頭や肩に手を伸ばして怪我がないかとやかましく見聞を始めるラグナ。
ジタンの目の前で親馬鹿の如く心配を吐き出すラグナに、
「大丈夫だから」
と、手の中に小さな光を呼び出した。
「悪い、スキル使うぞ」
ジタンを見、彼の頷きによる是の後すぐに、手の中に光を呼び出しケアルを発動させた。
どうやらスコールは見た目にこそあまり深く怪我をしていなかったようだが、その判断は間違っていたようだ。
発動した魔法のおかげで傷を治癒し、体の軽くなったスコールが軽く小さな息を吐く。戦う前まで回復とはいかないものの、もう問題なく戦えると思った瞬間、
「じゃ、次の敵は俺とジタン担当な」
と、ラグナの手がスコールの片腕を掴む。そのまま己の肩に回し、もう片手であっさりと横腹を支えてしまった。
「離せ!」
「駄目」
思ったより強い力で握られ、また支えられている手は今のスコールでは振り解くのは不可能だ。
じろりと睨むスコールを全く気に留めず、
「じゃ、行こうぜ」
ジタンは二人の、というよりラグナの行動をただぽかんとした顔で眺める事しかできなかった。
しかし、そのままの姿勢で歩き始めたラグナに気が付き、
「ラグナって過保護だなー」
軽くからかえば、にっこり笑い、
「いいの。お前に負けるわけにいかないからな」
やっぱり自分が感づいたラグナの「守る」という意味は正しかった。
そう思い、今度こそジタンはついさっき感じた痛みの原因に心の中で静かに向き合う。
『俺もスコールを守りたいのかもしれない。スコールだけを』
それは未だ曖昧で、形の無いものではあったが、ジタンの心にはまるでそこにあるのが当たり前であるかのようにしっくりと嵌まった。
「なら、俺も負けないぜ」
パンデモニウム城の中でその声は誰にも聞きとられる事無く、小さく零れ落ちた。
しかし、その声の主はどこか満足げな足取りで先を行く二人を追いかける。
今の気持ちがどこに向かうかはジタン本人にも未だ解らない。それでも今は、この小さな痛みを忘れないようにしよう。
そう思ってパンデモニウム城を後にした。
※4/22公開。4/30改訂版として再up。それにより1話完結に変更致しました。