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期間限定「DFF」、「DdFF」、「FF8」妄想だだ漏れブログ。 の筈が「進撃の巨人」にも手を出した腐のブログ。 初めての方はカテゴリーの『first』をご覧下さい。
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何時かの輪廻。
「秩序の聖域」に一人の少女がすやすやと健康的な寝息を立てていた。
いつも女神が座っている三日月を模した様な台座の上にいる少女をあきれた目で見つめながら、ガンブレードのグリップを固く握りしめていた手の力を軽く弛めた。
と、
「おーい、プリッシュ」
スコールの逆方向、ちょうど彼女を挟んで反対側から同じように覗き込んだラグナが面白半分のように声をかけた。
勿論起こすためではない、単なる悪戯だ。
「よくこんなところで眠れるな」
敵の気配はなく、そもそも滅多にカオスの駒の連中がここに立ち入ることは少ない。
しかし、それを差し引いてもこの状況はあまりにも危険すぎるのではないか。
油断しすぎている。
スコールは思わず片手で頭を抱えてしまった。
いくら彼女が戦い慣れており、シャントット曰く、「戦う事に関してなら何も心配していない」と一言で片付けたにせよ、さすがにこれは無いのではないか。
かすかな衣擦れに近い音を立てて剣を消し去り、小さなため息をつくスコールに、
「ま、これだけ爆睡してるってことは、しばらくは俺達もゆっくりできるってことじゃねぇの?」
と、台座の横にどかっと背を預けて座り込み、同じように手の中のマシンガンを消し去った。
「・・・・・・・・・そうだな」
「おー、珍しく素直」
ラグナの方に回り込む事無く、台座の端に寄ってラグナと同じように座り込んだ。
「・・・・・・・うるさい」
と、手の中にアイテムや召喚石を呼び出して装備の点検を始める。
「そういえばさぁ、スコール」
召喚石をカーバンクルからコヨコヨに取り換えようか、などと、己の世界に入り込みかけたスコールを現実に呼び戻す声。
のんびりしたそれに無言で返すのは、もうすっかり慣れたことだ。
ラグナもそれを承知であろう。
「この戦いって、何度も繰り返してるって本当か?」
「・・・・・・は?」
ぽつりと、まるで天気の話でもするかのようにかけられた言葉の意味に一瞬ついていけなかったスコールが、突拍子もない声を上げた。
それはいつもの呆れや苛立ちではない。
まさに『何を言っているんだこいつは』という意味だ。
「何だ、それは」
食いついた、という思惑ではないまま、世間話のようにラグナののんびりした声が秩序の聖域に続く。
未だ台座の上で眠り続ける彼女を挟んだまま。
「え~と、カオスの誰だっけ?が言ってた。この戦いは終わってもまた繰り返されるって」
意味不明だ。
しかし、ただそう切り捨てるわけにはいかない。
そもそもラグナはいったいどこでそんな話を聞いたのだ。
それにもし、その言葉の意味がそっくりそのまま取れるものなら。
そして、その意味が真実なら。
スコールの想像はどんどん深淵へと向かってゆく。
「ラグナ、何処でそんな情報を掴んだ?」
「・・・・思い出した。星の胎内だ。セフィロスだっけ、銀髪の長い奴、アレが皇帝サマと話してたのをちゃっかり聞いちまった」
(ちゃっかり?それはいいんだ)
「本当の事なのか?」
「へ?」
もう装備の変更に構う心の余裕がすっかりなくなってしまったスコールが、手の中のそれを消し去り、冷や汗の流れるままにイライラとラグナに突っかかる。
ラグナもスコールの異変に気付くが、それに構う気はないようだ。
のんびりと台座にもたれかかったままに、曇の多い、僅かに光の差し込む空を見つめている。
「だから!」
「・・・・・・わかんねぇよ」
「もし本当なら、俺達のやってる事は無意味ってことになるんだぞ!」
珍しく感情のまま叫んだスコール。
しかし、
「落ち着けスコール、プリッシュが起きる」
ようやく体を起こし、スコール側の方に顔を向ければ、彼はいつの間にか再び剣を手に戻し、そのままがばりと立ち上がった。
そこにはいつもの感情をセーブし、常に冷静であろうとする傭兵としての彼は存在しなかった。
まるで裏切られたかの様に怒りと悲しみに彩られた眼差しがラグナにはとても哀しく映る。
「ラグナ!アンタはいいのか?!」
「よくないよ」
翡翠の眼差しが静かにスコールを捉える。
いつもの二人とは思えないほどに行動が逆転している二人。
「うるさーい!やっとゆっくりできると思ったのに!」
「!?」
「プリッシュ?!」
緊迫した二人の間を無邪気な怒りに任せた叫び声が邪魔をした。
「せっかくシャントットのおばさんがいないから、ちょっとはサボりもありだろって昼寝してたら、何なんだお前ら!俺の邪魔しやがって!」
ぴょんとスコールの横に降り立ち、そのまま睨みつけるように振り向きながら、
「この戦いが繰り返されてるだぁ!?寝言は寝てから言えよ!それにカオスのあの連中だろ?ラグナに気付かずにへらへら会話するわけないだろ!どうせああやってコスモス軍に揺さぶりかけてやろうって魂胆見え見えじゃねぇか!スコールもそれぐらい見抜けよ!」
お前らよく一緒に戦いに出てるんだろ、と一気にまくし立てた後、眠っている間に軽く癖がついてしまった髪を手櫛で整え始める。
乱暴な言葉づかいの彼女だが、それは確かにスコールの冷静さを取り戻すにはよく効いた。
「さすがプリッシュ、俺もそう言おうと思ってたのにー」
てか、いつの間に起きたんだ?
のんびりした声音を貫いたまま反対側でパタパタと身なりを簡単に整えるプリッシュに軽く手を振れば。
「こいつの声で完全に起こされた。それまでちらちら声は聞こえてたけどな」
スコールを指さし、呆れたように目線を遣れば、すっかり先程までの緊張の解けたスコールがぽかんとした表情で突っ立っている。
「おい、スコール?」
「ああ、そうだな」
やっと帰ってきた言葉に本人もようやくいつもの己を取り戻したようだ。
「まーったく、意外と世話が焼けるなぁ」
と、プリッシュは改めて台座に腰掛け、
「そんな戯言とっとと忘れて休める時に休んどけよ」
と残し、今度は台座の端にもたれかけた。
「俺が見張っとく、そん替わり交代だからな」
「だってよ。先に休ませて貰おうぜ」
再び台座に持たれるラグナ。
・・・勝手な奴ばかりだ。
思わずそう思いながら、大人しく元の場所に腰掛け、
「敵が来たら起こしてくれ」
そう残して眠る体制に体を移すべく目を閉じたスコール。
「交代の時は声かけろよ、じゃ任したぜ」
ありがとな、とラグナも同じように休息を取り始める。
そうして。
遠くを見つめながらプリッシュはただ思った。
子供のようにふるまう大人と、意外と子供な獅子は、こんな真実、知らなくていい。
知るときは輪廻の鎖を断ち切る覚悟を決める時だと。

彼女は知っていた。
その時はそう遠くないと。


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本当はちゃんと覚えていた。
あの世界での戦いも、共にいた仲間たちの事も、あなたの事も。
ただ、それがずっと今日まで認識できなかっただけ。
その証拠に、スコールの記憶は湧き立つ水のように「12回目の輪廻」を脳内で再生してゆく。
共に旅をし、「のばら」を拾ったことも、「もっと仲間を信じ、世界を広げるべき」だと、相変わらずの口調と間違いの混じった言葉で語ったことも。
そして、あるとき。
彼と別れ、別の仲間達と探索を続ける事になったあの日、二度と彼に会えなくなってしまったこと。
まぎれもない過去がみるみるうちに記憶に蘇る。
少しだけ苦しい。
それはラグナにきつく抱きしめられているせいだけではなかった。
「ごめん、またお前を置き去りにした」
絞り出すような懺悔が深く胸を抉るようだ。
「本当に、ごめんな」
あの時の戦いは、ラグナを含む「彼ら」の想いと犠牲の上に成り立っていた。
ラグナの言葉によって思い出された記憶とともに、自分達があの「神々の戦い」を終わらせる意味を改めて深く感じ取ったスコールは、腕の中の存在が決して消えない事を叩き込むように理解すべく、ただきつく握りしめるラグナに、
「謝らなくていい」
その声をきっかけにゆるんだ腕の力に任せ、そのまま少しずつ体を離しながら、
「俺達が戦いを終わらせる事が出来て良かった」
「スコール?」
心配そうなラグナの声が何だかとても懐かしく感じる。
ああ、あの戦いの場でもこうやって皆を、自分を心配してくれた。
「だから今こうやってアンタと一緒にいられる」
だから、謝らなくていいんだ。
「ありがとう」
「スコール、それって」
スコールの少しだけたどたどしい感謝の言葉に、ついていけなかったラグナだが、小さな安堵の息を零し、
「お前こそ、ありがとな」
戦いを終わらせてくれて、またここに戻ってきてくれて。
「皆、今どうしてるんだろうなぁ」
急にいつもの軽い口ぶりが戻るも、そこにはやはりあの戦いの最中と同じ、仲間を思うラグナがいる。
「な、スコール。皆も会いたい奴にちゃんと「ただいま」言えてるよな」
ぽんぽんとスコールの背を軽く叩きながら、目線を窓に、何処とも知れぬ場所を見るかのように細める。
彼はいつもそうやって年長の一人であることを悟られずに、自然にサポートしていた。
改めて仲間を影ながら纏めていた彼のポジションと、この世界での彼の言動を思い出し、何だかとても心がやわらかく安らいでいくのを感じる。
今も、「異世界」でも、彼に本当は守られていた。
「大丈夫だろ」
信じるのは得意だろ?とかすかに緩めた目尻で伝えれば、自然にその思いが繋がる。
こうして触れ合い、言葉を交わせるのも貴方達の決意のおかげだから。
安らぎと共に切ないほどにあたたかい思いに包まれながら、もう会えない仲間達の幸せを、ただ願った。
注釈:「オランジェ」の続き。




ナイフを入れればとろける中身。
でもそれは本当に甘くておいしいの?



嬉しいというより、いらぬ心配をかけてしまったような、強い頷きに俺は「やっぱり失敗したかも」と思ってしまった。
左手をきつく右手で握りしめたままのスコールの表情は、彼自身の前髪が邪魔をしてよく見えない。
まして自分は立っているが、彼は座ったまま。
小さく震えるようなその手と声にいてもたってもいられないような焦燥感に駆られてしまう。
いつもどこかからかい気味のような、それでいて時々ちらりと男の顔を見せ、心の成長期を懸命に駆け抜ける彼を扱っていた。
時に無神経に、時に保護者の姿勢で。
そんな彼に対して、これまでの彼との付き合いの中で育てていた覚悟をきちんと示すべきと思って決行したことだった。
バレンタインを選んだのはただの偶然。
いや、スコールに「恋人」としての印象を強く植え付けたかったのかもしれない。
しかし、彼は思った以上に繊細で、想像を超えるほど時に大人で、時に酷く子供だった。
きっと理解してしまったのだ。
人ならぬ関係を結んでしまった事が意味する「影」を。
「スコール」
静寂に埋め尽くされた室内に低めの声が響く。
スコールはただ幼い子供が怯えるように返事すら返すことなく、ただラグナの言葉を無言で促す。
夜は刻一刻と濃度を増してゆく。
空調の効いた室内に、うっすらと足元から温度が奪われてゆく。
「スコール、聞いて」
そっと彼の肩に手を乗せれば、成長期真っ只中の薄さの目立つそれがびくりと震える。
ああ、きっと。
彼は今現実と戦っている。
「俺はお前を選んだことを、この関係を恥じる気はない。それをただ、示したかった」
扉の向こうにも気配がしない。
「確かにこの選択で裏切るものもあるし、それを責められても文句は言えねぇ」
訥々と語ることなく、ただ真っ直ぐに。
「でも、それでも俺はお前が欲しかった」
子供を慰める様に、優しさに満ちた声がスコールの耳に、心に波紋のように広がってゆく。
ゆっくりと、今度こそただ真っ直ぐに。
その声の主を静かに見つめるために、うつむいた顔を上げる。
灰色の混じったラピスの色彩は思いのほか水分を含み、持ち主の心を静かに語る。
「そういう事をちゃんと知って欲しかった。だから、渡した」
これから先、誰に責められようと彼だけは守る。
その思いと決意の証明として。
「ラグナ・・・・・・・」
震える唇が静かに彼の名を呼ぶ。
未だ胸元で固く握りしめられている左手は白さを帯び、いっそ痛々しいほどだ。
「俺は・・・」
声がかすれて出てこない。
それでも、伝えたい。
口下手でも、ちゃんとしたものでなくても。
「俺、も・・・。そう、なりたい」
今はまだ足りないから。
あなたの覚悟に見合う自分ではないから。
でも、恥じたりしたくない。
好きだから。
無くしたくないから。
「ああ、解った」
スコールよりも大きな手が軽く彼の目尻を拭う。
気持ちが形となって溢れてしまったのだろう、その滴を奪い、優しく微笑む。
「ちゃんと・・・、大事にするから」
今度こそそっと手を放し、ラグナの方にそうっと伸ばす。
壊れ物に触れるように、未だ動揺に支配されたその心で伸ばした腕は、同じく壊れ物を包み込むような彼の手に今度こそ強く握られる。
そうして。
強く引き寄せられるままにしたがって、スコールは彼の唇を受け入れた。
彼と結んだ「許されざる絆」の中で、これまでで一番苦く、そして何よりも甘いものだった。

甘いチョコレートに包まれて。
でもそれは本当は苦い。



「ほれ、スコール」
仕事を終え、ふと時刻を確認すればもう少しで午後8時を過ぎる時間。
ある都合でバラムを離れ、エスタ近郊に停泊していたバラムガーデンの窓からは、すでに日も暮れ、夜が静かに深まっていく様子を映し出していた。
と、未だに慣れそうもない少しだけやわらかいクッションの椅子の背から、ようやっと聞き慣れた声と何かを持った手が伸ばされる。
「ラグナ!?いつの間に」
「さっきの間」
背もたれに預けていた体を起こし、がばりと振り向けば目の前の人物に視線が釘付けになる。
いつの間に入室したのか、彼の父であり、「恋人」である男が少しあきれた様な目線でスコールを見つめていた。
「お前集中しすぎじゃね?俺が入ってきたことにも全然気が付かねぇんだもん」
ぷいと拗ねた様な声音と目線に瞬時に切り替え、椅子の背に手をだらりと乗せてもたれ掛りながらひらひらと片手で握っていた紙袋を軽く振る。
しかし、スコールはそれらを気にするよりも任務中なら確実に拾う事のできる他者の気配を全く感じ取れなかったことにひどく動揺していた。
だが、
「ま、いいや。ほれ」
この間のハロウィンの時とは逆みたいだなー、とにんまり笑いながらスコールの膝に紙袋が落とされる。
「・・・・・・何だ?」
それは思った以上に軽く、小さなものだった。
その軽さとラグナの視線、紙袋から視線を上げればいつもの笑みの中に僅かな緊張が見て取れた。
それを解るようになったのも、彼との短いとは言え密度の濃い付き合いによるものだ。
改めてそう感じ、動揺を一時切り離して紙袋の中身を取り出した。
「・・・ピアス?」
紙袋から転がるように取り出されたのは、きれいに包装された小箱。
それは以前からスコールが気にしていたブランドのもので、それだけでシルバーアクセサリーだと言う事は想像がついた。
「ま、いいから」
中身を見て、と楽しそうにスコールを促すラグナ。
まるで子供がちょっとしたいたずらを仕掛けた時の様なラグナの姿、そして掌の箱の中身に対する好奇心に促され、ゆっくりと包装紙を外して小箱の蓋を開く。
「これ・・・・」
「ま、いいから付けてみろって」
小箱の中に収められていたそれをひょいと取り出し、その中身を見たせいでさっきとは違う動揺を抱えてしまったスコールの片手を奪い、
「サイズが合えば良いんだけどなー」
左手の薬指。
目の前でするするとあっけなく嵌められたシルバーの指輪。
「お、サイズぴったり」
ラグナの声が、目の前の光景がまるで現実味を帯びない。どこか遠くで繰り広げられている他人の光景のように目を流れてゆく。
「スコール?」
指輪を嵌めた手を軽く握り、背もたれ越しに立つ男を見ようと視線を上げる。
そこには緊張を隠しつつもどこかいたずらが成功した子供の笑みを浮かべた己の思い人。
やわらかくあたたかさに満ちた翠がまっすぐに自分を見つめていた。
「アンタ、これ・・・・」
「驚いた?」
掴まれた左手を引き寄せれば、それはするりと彼の手の中から抜け出した。
改めて視線を指輪に戻し、細工の少ないそれをもう片手で軽く触れながら存在を確かめる。
その時になってようやくこれが現実であることを脳が、心が認識し始めた。
やや細身のスターリングシルバー。波の様な模様がわずかにあるだけの実にシンプルなデザイン。
「本物はまた今度、とりあえずはこれで勘弁してくれな」
「本物?って何で今こんな」
「今日はバレンタインだろ?それに」
ちょっと驚かせてみたかったんだよ。
「って、俺何にも用意してない・・・」
「良いんだよ、気にしなくても」
ぽんと大きな掌がスコールの頭を撫でる。それは小さな子供に対する父親の姿のように、どこかぎこちなくもあたたかい仕草で、スコールの心がみるみるそのぬくもりに満たされてゆく。
「俺がちゃんと”誠意”と”覚悟”っての持って付き合ってるってのをお前に見せたかっただけだから」
「ラグナ、それって・・・」
声が詰まる。
ラグナの言葉にスコールの心が一瞬「待った」をかけた。
今、それを聞いてもいいのだろうか。
きっとラグナなら「それは野暮だろう」と苦笑いで返してくれるだろう。
でも、なぜか今それを、心に浮かんだ”意味”を確認する勇気が持てなかった。
ラグナの言う”誠意”と”覚悟”の意味を瞬時に理解してしまったからかもしれない。
「大事にしろよ~」
「・・・ああ」
ぐりぐりと撫でつけるような手の動きが軽くなり、軽く髪を梳くような感触で離れてゆく。
それを名残惜しく感じながら、かすれるような声で返事をするのが今のスコールの精一杯だった。
震える手で左手を強く握り、再度深く頷き、そして。
心の中に広がってゆく、彼への想いの中に静かに隠れていた現実という名の苦み。
それをこんな形で理解するなんて。
これまでの彼との付き合いがあまりにも居心地が良くて忘れていた、見ないふりをしていた現実。
目の前の彼は、それをすべて飲み込んで自分の前に立っている。
この指輪の意味と、贈った日の意味。
そしてラグナの言葉。
愛情に乏しい日々を過ごし、最近ようやくその飴細工のように繊細で甘く優しい感触を覚え始めたスコールにとって、それらはただ甘やかな感情を覚えるだけでは済まないものになっていた。
改めて思い知らされた彼の思いの深さに、頷いたままの顔が上げられない。
心が、もう、溢れてしまう。
今ラグナによって指に嵌められた指輪に込められた”覚悟”と”誠意”をちゃんと誇りを持って受け止め、己もそれを持てるように。
そうならなくては、彼と同等の関係にはなれない。

スコールは改めて知ったのだ。
彼を選んだ事への誠意を、彼を愛する覚悟の意味を。



【後編「フォンダンショコラ」へ】
「スコールさんって優しいんですね」
隣で杖を大切そうに抱えた少女がそう言ってにっこり笑った。

「見張り、替わりますよ」
『夢の終わり』という、聞き様によっては何だか物騒な印象を受けるこの場は、常に夜の帳に包まれている。
中央の巨大な剣を模したオブジェに立ち、崩れ落ちそうな円周上の足場は「観客席」なのだと、コスモス軍の年長者であるジェクトがわずかな記憶を頼りに説明してくれた事を思い出す。
その巨大な剣を背もたれにし、カオスの連中やイミテーションの出現を待ち構えるかのように座り込んでから何時間経っただろうか。
気がつけば隣に一人の少女が立っていた。
彼女は「ユウナ」とい名で、自由自在に召喚獣を呼び出して戦うという、可憐な容姿の中に秘めた覚悟を持つ戦士の一人だ。
長いスカートのような服を両手で押さえながらちょこんと隣に腰掛け、
「おはようございます」
オッドアイの目がにっこりと笑みを形作る。
「・・・よく眠れたか」
「はい。おかげさまで」
視線をわずかに彼女に向ける。
この「任務」が始まったばかりの頃は、他の仲間から「スコールは怖い」だのと言われていた事も知っている。それは自分にとってある一面とても都合が良かった。そう思われていれば誰からも余計な干渉は受けなくて済むし、何より戦う上で動きやすい。
万が一裏切り者が出たとしても、一番にそいつに自分が粛清を浴びせればいいとさえ思っていた。
しかし、彼女は違っていた。
少し遠巻きに見ていたかと思えば、何の衒いも躊躇いすらなく自分に近づき、自然にアシストをしてくれた。
決して押し付けではないその行動に、仲間を思いやる自然な言葉にスコールは気がつけば無碍に彼女を追い払う事ができない自分に気がついた。
そして彼女の傍にはいつもジェクトが居た。どうやら同じ世界から来たらしい二人はまるで実の親子のように自然に支えあっていた。
今回の探索も勿論ジェクトが一緒に居る。
そしてラグナの4人でひずみを開放し、「夢の終わり」で休む事になったのだった。
「なら、いいんだ」
軽く頬杖をつき、胡坐をかいた姿勢にすると、
「ティーダとは会えないのかな」
珍しくも、彼女のどこか弱々しい声が「夢の終わり」に小さく落とされた。
あたりには「幻光虫」と呼ばれる、これもジェクトが教えてくれたほのかな光がまるで蛍のように浮かんでは消えてを繰り返している。
初めてみた自分ですら「綺麗だ」と自然に感じたこの場所は、どうやら二人にとって苦い意味を持つようだった。
「カオスの、あいつの事か?」
「はい」
膝を強く抱え、遠くを見つめるような視線はいつものユウナとは程遠い。
「ジェクトの子供らしいな」
ジェクトが以前、ティーダと戦ったときはその場にユウナは居なかった。深手を負い、確か別の仲間に「聖域」まで運ばれていた筈だ。
そして、そのティーダと言う名のカオス軍の戦士である青年はジェクトの事を『親父』と呼んでいた。たった一度、青い美しい剣をジェクトの心臓目掛けて斬りかけるその瞬間の、彼の悲しみに包まれたような声は、スコールの耳にとても深く印象に残っていた。
今から考えればずいぶん前となっていたその記憶を手繰り寄せながらスコールが確認する。
返事の代わりに深く頷き、
「ティーダは私のいた世界で、私をずっと守ってくれていたんです」
大切そうに、秘密を打ち明けるかのように彼女が言葉を繋げる。
「でも、どうしてカオス側に・・・。ティーダは破壊を望んだりする人じゃないんです」
スコールの頭に先程から手繰り寄せていた記憶にあったジェクトの言葉がよぎる。
『ティーダの奴、カオス側に来ちまいやがった』
怪我を仲間の治癒魔法で塞ぎつつも、深手による熱で朦朧としていたユウナにもそれは聞こえてしまった。テントの中で治療を受けていた為、表情こそ怪我と熱によるものとして一部の者にしか見られる事は無かったが、その顔色はとても青ざめていた。
過去の戦いで少しずつ記憶をその手に掴んでいた彼女にとって、『ティーダ』の存在はまさに希望だった。
彼の遺してくれたもの、一緒に旅をしている間ずっと自分を、その心を守ってくれた事。
その『希望』と敵同士になるとは思いも寄らなかった。
それでも仲間の前ではしゃんと己の足で立つ彼女に、本当は酷くジェクトが心配していた。
その一件以来、なお一層ジェクトが彼女を守るようになっていた。
まるで、ティーダの不在を埋めるかのように。
いつもまわりを思い、羽ばたき続ける彼女に少しでも立ち止まる事の出来る『止まり木』となれるように。
「ごめんなさい、変な事を言っちゃいましたね」
スコールの「任務」に対する厳格さを、この探索を通してひしひしと感じてきたユウナが立ち上がろうとする。
「構わない。大事な奴なんだろう」
今度こそまっすぐにユウナを灰色の混じった青い瞳が捉えた。
ジェクトの行動、ユウナの言葉。それらが持つ意味を感じ取り、言葉にこそしないその気持ちを眼差しに込める。
(なら信じていればいい)
粗雑だが優しいあの男の息子なら、きっと彼女の思いも伝わるだろう。
この「任務」で自然と浮かぶようになっていた『信頼』への希望を心の中で呟く。
その眼差しはとてもあたたかく力強い。
「・・・・・・はい」
自分を守るように取り出していた杖を抱えて、少しだけ水分の多いオッドアイが笑う。
心の襞を感じ取る事に長けているのだろう、彼女の声は小さくもあたたかく、強い決意に満ちていた。
「スコールさんって優しいんですね」
ふわりと乗せられた言葉に一瞬言葉をなくしてしまったスコールに、
「今、「ティーダを信じればいい」っていってくれた気がしました」
「・・・別に」
ぷいっと顔を背けるも、
「ありがとうございます」
わずかに腰を屈めて、座り込んでいるスコールに感謝の言葉をかけたところだった。
「おはょ~、スコール」
大きなあくびをしながらラグナがよたよたとやってきた。
「おはようございます」
「ああ」
と、
「ユウナちゃんもおはよー。ってあれ?ユウナちゃん見張りだったっけ?」
女の子に見張りさせるほど俺ら厳しかったっけ~。と能天気な表情を見せるラグナに、
「あ、スコールさん仮眠とって下さい。まだ出発まで少し時間ありますから」
「な~にやってんだ、お前ぇらは」
スコールと一緒に見張りをしていたジェクトが周りの哨戒から戻ってきた。
「と、おいラグナ。起きたんならスコールと見張り替われ」
どすどすと大股で三人に近づき、そのままどっかりと座りこみ、
「とりあえずあたりには何にもいねぇがな。時間的には夜明けまで少し時間がある」
傭兵っつても体力勝負だろ?休めるときに休んどけ。
スコールの頭を乱暴にぐしゃぐしゃとかき混ぜる姿に、ちくりと胸を刺す印象を受けつつも、
「そうですよ、私達で準備しますから」
いつもの自然な気遣いを見せる彼女に、
「・・・・・・・・解った」
すっかり崩れてしまった髪を直し、再び彼女を見ればいつもの様子にすっかり戻っていた。
「ラグナ、毛布寄越せ」
「おう、ついでに寝かしつけてやろうか」
「要らん!」
「ラグナ、お前いい加減スコールに甘えるな」
もう少しで夜が明ける。
彼女が『希望』を目指して戦う道の先に、幸せな結果が繋がる事を信じて。
いつもの自分らしくない甘い願いを胸に落として、スコールはわずかな時間を休息に使う事にした。
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