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期間限定「DFF」、「DdFF」、「FF8」妄想だだ漏れブログ。 の筈が「進撃の巨人」にも手を出した腐のブログ。 初めての方はカテゴリーの『first』をご覧下さい。
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甘いチョコレートに包まれて。
でもそれは本当は苦い。



「ほれ、スコール」
仕事を終え、ふと時刻を確認すればもう少しで午後8時を過ぎる時間。
ある都合でバラムを離れ、エスタ近郊に停泊していたバラムガーデンの窓からは、すでに日も暮れ、夜が静かに深まっていく様子を映し出していた。
と、未だに慣れそうもない少しだけやわらかいクッションの椅子の背から、ようやっと聞き慣れた声と何かを持った手が伸ばされる。
「ラグナ!?いつの間に」
「さっきの間」
背もたれに預けていた体を起こし、がばりと振り向けば目の前の人物に視線が釘付けになる。
いつの間に入室したのか、彼の父であり、「恋人」である男が少しあきれた様な目線でスコールを見つめていた。
「お前集中しすぎじゃね?俺が入ってきたことにも全然気が付かねぇんだもん」
ぷいと拗ねた様な声音と目線に瞬時に切り替え、椅子の背に手をだらりと乗せてもたれ掛りながらひらひらと片手で握っていた紙袋を軽く振る。
しかし、スコールはそれらを気にするよりも任務中なら確実に拾う事のできる他者の気配を全く感じ取れなかったことにひどく動揺していた。
だが、
「ま、いいや。ほれ」
この間のハロウィンの時とは逆みたいだなー、とにんまり笑いながらスコールの膝に紙袋が落とされる。
「・・・・・・何だ?」
それは思った以上に軽く、小さなものだった。
その軽さとラグナの視線、紙袋から視線を上げればいつもの笑みの中に僅かな緊張が見て取れた。
それを解るようになったのも、彼との短いとは言え密度の濃い付き合いによるものだ。
改めてそう感じ、動揺を一時切り離して紙袋の中身を取り出した。
「・・・ピアス?」
紙袋から転がるように取り出されたのは、きれいに包装された小箱。
それは以前からスコールが気にしていたブランドのもので、それだけでシルバーアクセサリーだと言う事は想像がついた。
「ま、いいから」
中身を見て、と楽しそうにスコールを促すラグナ。
まるで子供がちょっとしたいたずらを仕掛けた時の様なラグナの姿、そして掌の箱の中身に対する好奇心に促され、ゆっくりと包装紙を外して小箱の蓋を開く。
「これ・・・・」
「ま、いいから付けてみろって」
小箱の中に収められていたそれをひょいと取り出し、その中身を見たせいでさっきとは違う動揺を抱えてしまったスコールの片手を奪い、
「サイズが合えば良いんだけどなー」
左手の薬指。
目の前でするするとあっけなく嵌められたシルバーの指輪。
「お、サイズぴったり」
ラグナの声が、目の前の光景がまるで現実味を帯びない。どこか遠くで繰り広げられている他人の光景のように目を流れてゆく。
「スコール?」
指輪を嵌めた手を軽く握り、背もたれ越しに立つ男を見ようと視線を上げる。
そこには緊張を隠しつつもどこかいたずらが成功した子供の笑みを浮かべた己の思い人。
やわらかくあたたかさに満ちた翠がまっすぐに自分を見つめていた。
「アンタ、これ・・・・」
「驚いた?」
掴まれた左手を引き寄せれば、それはするりと彼の手の中から抜け出した。
改めて視線を指輪に戻し、細工の少ないそれをもう片手で軽く触れながら存在を確かめる。
その時になってようやくこれが現実であることを脳が、心が認識し始めた。
やや細身のスターリングシルバー。波の様な模様がわずかにあるだけの実にシンプルなデザイン。
「本物はまた今度、とりあえずはこれで勘弁してくれな」
「本物?って何で今こんな」
「今日はバレンタインだろ?それに」
ちょっと驚かせてみたかったんだよ。
「って、俺何にも用意してない・・・」
「良いんだよ、気にしなくても」
ぽんと大きな掌がスコールの頭を撫でる。それは小さな子供に対する父親の姿のように、どこかぎこちなくもあたたかい仕草で、スコールの心がみるみるそのぬくもりに満たされてゆく。
「俺がちゃんと”誠意”と”覚悟”っての持って付き合ってるってのをお前に見せたかっただけだから」
「ラグナ、それって・・・」
声が詰まる。
ラグナの言葉にスコールの心が一瞬「待った」をかけた。
今、それを聞いてもいいのだろうか。
きっとラグナなら「それは野暮だろう」と苦笑いで返してくれるだろう。
でも、なぜか今それを、心に浮かんだ”意味”を確認する勇気が持てなかった。
ラグナの言う”誠意”と”覚悟”の意味を瞬時に理解してしまったからかもしれない。
「大事にしろよ~」
「・・・ああ」
ぐりぐりと撫でつけるような手の動きが軽くなり、軽く髪を梳くような感触で離れてゆく。
それを名残惜しく感じながら、かすれるような声で返事をするのが今のスコールの精一杯だった。
震える手で左手を強く握り、再度深く頷き、そして。
心の中に広がってゆく、彼への想いの中に静かに隠れていた現実という名の苦み。
それをこんな形で理解するなんて。
これまでの彼との付き合いがあまりにも居心地が良くて忘れていた、見ないふりをしていた現実。
目の前の彼は、それをすべて飲み込んで自分の前に立っている。
この指輪の意味と、贈った日の意味。
そしてラグナの言葉。
愛情に乏しい日々を過ごし、最近ようやくその飴細工のように繊細で甘く優しい感触を覚え始めたスコールにとって、それらはただ甘やかな感情を覚えるだけでは済まないものになっていた。
改めて思い知らされた彼の思いの深さに、頷いたままの顔が上げられない。
心が、もう、溢れてしまう。
今ラグナによって指に嵌められた指輪に込められた”覚悟”と”誠意”をちゃんと誇りを持って受け止め、己もそれを持てるように。
そうならなくては、彼と同等の関係にはなれない。

スコールは改めて知ったのだ。
彼を選んだ事への誠意を、彼を愛する覚悟の意味を。



【後編「フォンダンショコラ」へ】
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