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期間限定「DFF」、「DdFF」、「FF8」妄想だだ漏れブログ。 の筈が「進撃の巨人」にも手を出した腐のブログ。 初めての方はカテゴリーの『first』をご覧下さい。
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本当はちゃんと覚えていた。
あの世界での戦いも、共にいた仲間たちの事も、あなたの事も。
ただ、それがずっと今日まで認識できなかっただけ。
その証拠に、スコールの記憶は湧き立つ水のように「12回目の輪廻」を脳内で再生してゆく。
共に旅をし、「のばら」を拾ったことも、「もっと仲間を信じ、世界を広げるべき」だと、相変わらずの口調と間違いの混じった言葉で語ったことも。
そして、あるとき。
彼と別れ、別の仲間達と探索を続ける事になったあの日、二度と彼に会えなくなってしまったこと。
まぎれもない過去がみるみるうちに記憶に蘇る。
少しだけ苦しい。
それはラグナにきつく抱きしめられているせいだけではなかった。
「ごめん、またお前を置き去りにした」
絞り出すような懺悔が深く胸を抉るようだ。
「本当に、ごめんな」
あの時の戦いは、ラグナを含む「彼ら」の想いと犠牲の上に成り立っていた。
ラグナの言葉によって思い出された記憶とともに、自分達があの「神々の戦い」を終わらせる意味を改めて深く感じ取ったスコールは、腕の中の存在が決して消えない事を叩き込むように理解すべく、ただきつく握りしめるラグナに、
「謝らなくていい」
その声をきっかけにゆるんだ腕の力に任せ、そのまま少しずつ体を離しながら、
「俺達が戦いを終わらせる事が出来て良かった」
「スコール?」
心配そうなラグナの声が何だかとても懐かしく感じる。
ああ、あの戦いの場でもこうやって皆を、自分を心配してくれた。
「だから今こうやってアンタと一緒にいられる」
だから、謝らなくていいんだ。
「ありがとう」
「スコール、それって」
スコールの少しだけたどたどしい感謝の言葉に、ついていけなかったラグナだが、小さな安堵の息を零し、
「お前こそ、ありがとな」
戦いを終わらせてくれて、またここに戻ってきてくれて。
「皆、今どうしてるんだろうなぁ」
急にいつもの軽い口ぶりが戻るも、そこにはやはりあの戦いの最中と同じ、仲間を思うラグナがいる。
「な、スコール。皆も会いたい奴にちゃんと「ただいま」言えてるよな」
ぽんぽんとスコールの背を軽く叩きながら、目線を窓に、何処とも知れぬ場所を見るかのように細める。
彼はいつもそうやって年長の一人であることを悟られずに、自然にサポートしていた。
改めて仲間を影ながら纏めていた彼のポジションと、この世界での彼の言動を思い出し、何だかとても心がやわらかく安らいでいくのを感じる。
今も、「異世界」でも、彼に本当は守られていた。
「大丈夫だろ」
信じるのは得意だろ?とかすかに緩めた目尻で伝えれば、自然にその思いが繋がる。
こうして触れ合い、言葉を交わせるのも貴方達の決意のおかげだから。
安らぎと共に切ないほどにあたたかい思いに包まれながら、もう会えない仲間達の幸せを、ただ願った。
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注釈:「オランジェ」の続き。




ナイフを入れればとろける中身。
でもそれは本当に甘くておいしいの?



嬉しいというより、いらぬ心配をかけてしまったような、強い頷きに俺は「やっぱり失敗したかも」と思ってしまった。
左手をきつく右手で握りしめたままのスコールの表情は、彼自身の前髪が邪魔をしてよく見えない。
まして自分は立っているが、彼は座ったまま。
小さく震えるようなその手と声にいてもたってもいられないような焦燥感に駆られてしまう。
いつもどこかからかい気味のような、それでいて時々ちらりと男の顔を見せ、心の成長期を懸命に駆け抜ける彼を扱っていた。
時に無神経に、時に保護者の姿勢で。
そんな彼に対して、これまでの彼との付き合いの中で育てていた覚悟をきちんと示すべきと思って決行したことだった。
バレンタインを選んだのはただの偶然。
いや、スコールに「恋人」としての印象を強く植え付けたかったのかもしれない。
しかし、彼は思った以上に繊細で、想像を超えるほど時に大人で、時に酷く子供だった。
きっと理解してしまったのだ。
人ならぬ関係を結んでしまった事が意味する「影」を。
「スコール」
静寂に埋め尽くされた室内に低めの声が響く。
スコールはただ幼い子供が怯えるように返事すら返すことなく、ただラグナの言葉を無言で促す。
夜は刻一刻と濃度を増してゆく。
空調の効いた室内に、うっすらと足元から温度が奪われてゆく。
「スコール、聞いて」
そっと彼の肩に手を乗せれば、成長期真っ只中の薄さの目立つそれがびくりと震える。
ああ、きっと。
彼は今現実と戦っている。
「俺はお前を選んだことを、この関係を恥じる気はない。それをただ、示したかった」
扉の向こうにも気配がしない。
「確かにこの選択で裏切るものもあるし、それを責められても文句は言えねぇ」
訥々と語ることなく、ただ真っ直ぐに。
「でも、それでも俺はお前が欲しかった」
子供を慰める様に、優しさに満ちた声がスコールの耳に、心に波紋のように広がってゆく。
ゆっくりと、今度こそただ真っ直ぐに。
その声の主を静かに見つめるために、うつむいた顔を上げる。
灰色の混じったラピスの色彩は思いのほか水分を含み、持ち主の心を静かに語る。
「そういう事をちゃんと知って欲しかった。だから、渡した」
これから先、誰に責められようと彼だけは守る。
その思いと決意の証明として。
「ラグナ・・・・・・・」
震える唇が静かに彼の名を呼ぶ。
未だ胸元で固く握りしめられている左手は白さを帯び、いっそ痛々しいほどだ。
「俺は・・・」
声がかすれて出てこない。
それでも、伝えたい。
口下手でも、ちゃんとしたものでなくても。
「俺、も・・・。そう、なりたい」
今はまだ足りないから。
あなたの覚悟に見合う自分ではないから。
でも、恥じたりしたくない。
好きだから。
無くしたくないから。
「ああ、解った」
スコールよりも大きな手が軽く彼の目尻を拭う。
気持ちが形となって溢れてしまったのだろう、その滴を奪い、優しく微笑む。
「ちゃんと・・・、大事にするから」
今度こそそっと手を放し、ラグナの方にそうっと伸ばす。
壊れ物に触れるように、未だ動揺に支配されたその心で伸ばした腕は、同じく壊れ物を包み込むような彼の手に今度こそ強く握られる。
そうして。
強く引き寄せられるままにしたがって、スコールは彼の唇を受け入れた。
彼と結んだ「許されざる絆」の中で、これまでで一番苦く、そして何よりも甘いものだった。

甘いチョコレートに包まれて。
でもそれは本当は苦い。



「ほれ、スコール」
仕事を終え、ふと時刻を確認すればもう少しで午後8時を過ぎる時間。
ある都合でバラムを離れ、エスタ近郊に停泊していたバラムガーデンの窓からは、すでに日も暮れ、夜が静かに深まっていく様子を映し出していた。
と、未だに慣れそうもない少しだけやわらかいクッションの椅子の背から、ようやっと聞き慣れた声と何かを持った手が伸ばされる。
「ラグナ!?いつの間に」
「さっきの間」
背もたれに預けていた体を起こし、がばりと振り向けば目の前の人物に視線が釘付けになる。
いつの間に入室したのか、彼の父であり、「恋人」である男が少しあきれた様な目線でスコールを見つめていた。
「お前集中しすぎじゃね?俺が入ってきたことにも全然気が付かねぇんだもん」
ぷいと拗ねた様な声音と目線に瞬時に切り替え、椅子の背に手をだらりと乗せてもたれ掛りながらひらひらと片手で握っていた紙袋を軽く振る。
しかし、スコールはそれらを気にするよりも任務中なら確実に拾う事のできる他者の気配を全く感じ取れなかったことにひどく動揺していた。
だが、
「ま、いいや。ほれ」
この間のハロウィンの時とは逆みたいだなー、とにんまり笑いながらスコールの膝に紙袋が落とされる。
「・・・・・・何だ?」
それは思った以上に軽く、小さなものだった。
その軽さとラグナの視線、紙袋から視線を上げればいつもの笑みの中に僅かな緊張が見て取れた。
それを解るようになったのも、彼との短いとは言え密度の濃い付き合いによるものだ。
改めてそう感じ、動揺を一時切り離して紙袋の中身を取り出した。
「・・・ピアス?」
紙袋から転がるように取り出されたのは、きれいに包装された小箱。
それは以前からスコールが気にしていたブランドのもので、それだけでシルバーアクセサリーだと言う事は想像がついた。
「ま、いいから」
中身を見て、と楽しそうにスコールを促すラグナ。
まるで子供がちょっとしたいたずらを仕掛けた時の様なラグナの姿、そして掌の箱の中身に対する好奇心に促され、ゆっくりと包装紙を外して小箱の蓋を開く。
「これ・・・・」
「ま、いいから付けてみろって」
小箱の中に収められていたそれをひょいと取り出し、その中身を見たせいでさっきとは違う動揺を抱えてしまったスコールの片手を奪い、
「サイズが合えば良いんだけどなー」
左手の薬指。
目の前でするするとあっけなく嵌められたシルバーの指輪。
「お、サイズぴったり」
ラグナの声が、目の前の光景がまるで現実味を帯びない。どこか遠くで繰り広げられている他人の光景のように目を流れてゆく。
「スコール?」
指輪を嵌めた手を軽く握り、背もたれ越しに立つ男を見ようと視線を上げる。
そこには緊張を隠しつつもどこかいたずらが成功した子供の笑みを浮かべた己の思い人。
やわらかくあたたかさに満ちた翠がまっすぐに自分を見つめていた。
「アンタ、これ・・・・」
「驚いた?」
掴まれた左手を引き寄せれば、それはするりと彼の手の中から抜け出した。
改めて視線を指輪に戻し、細工の少ないそれをもう片手で軽く触れながら存在を確かめる。
その時になってようやくこれが現実であることを脳が、心が認識し始めた。
やや細身のスターリングシルバー。波の様な模様がわずかにあるだけの実にシンプルなデザイン。
「本物はまた今度、とりあえずはこれで勘弁してくれな」
「本物?って何で今こんな」
「今日はバレンタインだろ?それに」
ちょっと驚かせてみたかったんだよ。
「って、俺何にも用意してない・・・」
「良いんだよ、気にしなくても」
ぽんと大きな掌がスコールの頭を撫でる。それは小さな子供に対する父親の姿のように、どこかぎこちなくもあたたかい仕草で、スコールの心がみるみるそのぬくもりに満たされてゆく。
「俺がちゃんと”誠意”と”覚悟”っての持って付き合ってるってのをお前に見せたかっただけだから」
「ラグナ、それって・・・」
声が詰まる。
ラグナの言葉にスコールの心が一瞬「待った」をかけた。
今、それを聞いてもいいのだろうか。
きっとラグナなら「それは野暮だろう」と苦笑いで返してくれるだろう。
でも、なぜか今それを、心に浮かんだ”意味”を確認する勇気が持てなかった。
ラグナの言う”誠意”と”覚悟”の意味を瞬時に理解してしまったからかもしれない。
「大事にしろよ~」
「・・・ああ」
ぐりぐりと撫でつけるような手の動きが軽くなり、軽く髪を梳くような感触で離れてゆく。
それを名残惜しく感じながら、かすれるような声で返事をするのが今のスコールの精一杯だった。
震える手で左手を強く握り、再度深く頷き、そして。
心の中に広がってゆく、彼への想いの中に静かに隠れていた現実という名の苦み。
それをこんな形で理解するなんて。
これまでの彼との付き合いがあまりにも居心地が良くて忘れていた、見ないふりをしていた現実。
目の前の彼は、それをすべて飲み込んで自分の前に立っている。
この指輪の意味と、贈った日の意味。
そしてラグナの言葉。
愛情に乏しい日々を過ごし、最近ようやくその飴細工のように繊細で甘く優しい感触を覚え始めたスコールにとって、それらはただ甘やかな感情を覚えるだけでは済まないものになっていた。
改めて思い知らされた彼の思いの深さに、頷いたままの顔が上げられない。
心が、もう、溢れてしまう。
今ラグナによって指に嵌められた指輪に込められた”覚悟”と”誠意”をちゃんと誇りを持って受け止め、己もそれを持てるように。
そうならなくては、彼と同等の関係にはなれない。

スコールは改めて知ったのだ。
彼を選んだ事への誠意を、彼を愛する覚悟の意味を。



【後編「フォンダンショコラ」へ】
それはいつものようにひずみを探索し、戦闘を終えた後の事だった。
その戦いで手に入れたアイテムを分別していた手を急に止め、
「あ、俺今日誕生日だった」
あっけらかんとした声でラグナがそうのたまった。
「あ、そうなのか?」
「・・・だから何だ?」
「へー、今日なんだ。おめでとー」
「・・・・・・・・」
隣ですぐに使わないアイテムを袋に詰めていたフリオニール、アクセサリの装備を変更していたライトニング、自分達が今休憩に使っている草むらにイミテーションが隠れていないか見張っていたジタン、同じくスコールがそれぞれラグナの言葉に返したのがそれだ。
フリオニールやジタンは好意的だが、残る二人は『面倒くさい』と言わんばかりの態度を隠す事も無い。
しかし、そんな二人を気にするラグナではない事などすでに皆承知の上だ。にっこり笑い、
「お、ありがとなー、ジタン」
アイテムを分別していた手を再開しながら礼を返せば、ジタンも笑って、
「そうだ。これラグナにやるよ」
軽い足取りでラグナに駆け寄り、ひょいと『ラストエリクサー』を手渡した。
「いいのか?これなかなか手に入らない奴だろ?」
アイテムのラベルを確認し、さすがにラグナが遠慮する。この世界でも『ラストエリクサー』は貴重品だ。
しかし、
「いーんだって。さっきの戦闘で運よく2個も取れちゃったんだよねー」
思わず返そうとするラグナの手を遮り、にっと深く笑い返せば、
「解った。大事に使わせてもらうぜ。ありがとうな」
改めて手の中のそれを大事そうに握り締める。
「俺からはアイテムとかじゃないけど、今晩は何かうまいものでも作るよ」
それでプレゼントって事にしてくれないか、と人好きのする青年の気遣いがラグナにはとても嬉しい。
ジタンの隣に来たフリオニールに、
「ありがとな、期待してるぜ」
それにほっとしたような笑みをこぼすフリオニール。
穏やかな三人のやり取りに少々置いてけぼりを食らったような気分になるスコールだが。
「私からも特にプレゼントはないな」
取り替えたアイテムをフリオニールに渡しながら、クールなアルトが耳に届く。
「誕生日おめでとう、ラグナ」
口調こそいつもと同じながらも、自然と掛けられた言葉。
すっと立ち上がった彼女を見上げれば、いつからか自然と見られるようになった彼女の柔らかな眼差しが自分を見ていた。
「へへっ、ありがとな」
こういった彼女の気遣いをこれまでの旅で知るようになってきたラグナにとって、それはとても特別な言葉として耳に、心に届いた。
子供のように笑うラグナに一瞬照れの様な気恥ずかしさを覚えつつも、すっと視線を遠くに投げ、
「そろそろここを離れるぞ」
見ればイミテーションが3対、相変わらずのキラキラとしたガラスの光をこぼしながらまるでこのあたりを哨戒でもするかのごとくうろうろしている。戦闘に持ち込まれても特に問題は無いが、不要な戦いを避けるのも戦術の一つだ。ただでさえ、自分達の居るこの場所は比較的イミテーションの力が強いと仲間内で噂になっている。ひずみの中ならともかく、もし高レベルの相手なら面倒だ。
ライトニングの声にスコールが同じ方向を向き、
「そうだな」
その声を皮切りに、5人はイミテーションに気取られる事の無い様、そそくさとその場を立ち去った。

 *

その夜。
「スコールはラグナに何にもしないのか?」
夜間の見張りを買って出たフリオニールに、スコールが交代の為声を掛けようとした時だった。
「別に」
そっけなく返したつもりだった。心の中ではまさかジタンやフリオニールだけでなく、ライトニングまであの時ラグナに祝いの気持ちを言葉や態度で見せるとは思っていなかった。
ここは戦いの場であり、それ以外の言動は己や仲間の不利益に直結するという理由から、特に彼のその言葉に返答する必要は無いと考えた。しかし、今こうなっている現状は、己の行動とタイミングの結果とは言え少々気分が良くない。しかもあの後、ラグナから催促めいた事は何一つ聞かれない。
「でも言葉だけでも良いんじゃないか」
ラグナはすぐに喜んでくれるぞ。
目の前に焚かれた火から少し心配そうに視線をスコールに向ければ、
「だーいじょうぶだって、フリオニール君」
携帯用の毛布を肩からかぶったラグナが二人の後ろから近づいてきた。退役しているとは言え、こういうときは彼はやはり軍人だ。足音はおろか、気配すら感じさせる事無くラグナはスコールの横に陣取った。
「スコールはちゃんと俺の誕生日を祝ってくれてるから」
自信満々の笑みをフリオニールに向けると、
「そうなのか?」
「ああ」
スコールが逃げられないように肩を抱き、深く頷く。
「ならいいんだ」
ほっとしたような表情を浮かべるフリオニールに、
「変な気を使わせちまったなー」
と返せば、「気にしてない」という眼差しと「おやすみ」と言う言葉が掛けられた。
そうしてフリオニールが立ち去った焚き火の前、ただスコールだけが居心地の悪さを感じている。
しかし、
「気にする事なんてねぇよ」
肩を抱いていた手に力を込め、
「お前からの言葉はちゃんと聞こえたし、これから先も楽しみにしてるから」
何をこの男は言い出すのか。
スコールの機嫌はみるみる急降下してゆく。
確かにフリオニールの言うとおり、言葉だけでもかけるべきだったのかもしれない。しかし、今こうして居る状況で、普通なら一言、「おめでとう」とでも言ってやれば良いことは解っている。
しかし、何故それをしてやらなければならないのだ。ただでさえにぎやか過ぎるこの男に疲労を与えられている自分としては、むしろこっちが気を使って欲しい気にすらなってしまう。
悶々と、ともすれば身勝手にも取れることを脳内でぶつぶつ呟いていた感情が頂点を迎えてしまったようだ。
「俺は何も言ってない」
拗ねるように苛立ちをあらわにするかのごとくこぼしたスコールに、それでもラグナが続ける。スコールは顔を上げることも無く、ただその声を流すように聞くだけだ。
いや、とりあえず我慢をする事で何とかこの話を済ませようと思ったのかもしれない。
「それでも良いさ」
俺が楽しみにしているだけだから。
(何で勝手に俺がそんな事を言った事になってるんだ。そもそもこれから先って何なんだ)
うつむいたまま脳内でぶつぶつ愚痴のような事を考えているスコールは、ラグナの被っている毛布に視界を遮られていた事も手伝って、今のラグナの様子に気がつかなかった。
まるで子供をなだめるような声音で話すラグナの視線が遠い空を見詰めていたのを。
その表情が、あまりにも穏やかであたたかく、哀しいほどに切なそうだった事を。

 *

「って事を思い出したわ」
もうすぐ夜明けを迎える真冬の自宅。ベッドの端に転がって、どこか懐かしそうに天井を見詰めながらラグナがこぼした。
「・・・」
寝煙草禁止の為、どこか口さびしそうにぼんやりと独り言のように語られたのは、遥か遠い異世界での記憶。
神々の闘争での記憶を何のきっかけか引っ張り出し、そろそろ起床しなければと思いながらも、そのぬくもりに負けそうになっていた自分にそれを延々と聞かせていた男の声がようやく途切れた。
最初こそ睡魔に負けそうになりながら聞き流していたものの、だんだんとスコールもそれを思い出してしまい、最後にはすっかり目が覚めきってしまった。
「スコール」
(いつまで俺のベッドに陣取るつもりだ)
「ありがとな」
(は?)
「お前は声に出さないだけだって、あん時から知ってるから」
恨み言でもない、自然な会話の続きとして彼は言葉を綴る。
しかし、それが逆に自分に対してまるでもう諦めてしまっているような言葉に聞こえてスコールは苛立ちを新たにする。
(そうやってあんたらしくない言い方されるほうがよっぽどムカつくんだ!)
「だから、って」
ばっと体を起こし、未だに寝転がって天井を見るとも無くぼんやりとしていたラグナに、
「誕生日おめでとう!」
苛立つ感情そのままに祝いの言葉を吐き出して、その勢いに任せてラグナの唇に食らいつく。
乱暴なキスを一瞬だけぶつけ、すっと離して起き上がればびっくりした表情のまま固まっているラグナが目に映った。
我ながら子供っぽい行動だが、それでも思いのほかすっきりした気分でベッドから降り、
「これまでの分全部だ」
声高らかにそう残し、さっさと部屋を後にする。冬の寒さにどんどん体温が奪われてゆくような感覚に思わず身震いするも気持ちだけは妙に高揚し、そして清々しい。
そんなスコールをただ見送る事しかできなかったラグナだが、
「可愛いなぁ、相変わらず」
胸の奥から湧き上がる笑みが止められない。まさか彼があんな可愛い反撃を食らわせてくるとは思わなかった。あの時は記憶がぼんやり戻り始めた頃だったから、つい意地を張るわけではなかったが、彼の過去を考えてあんな風に言ってしまった。
ところが今はどうだ。少々拗ねたようなフリを見せ、あの時と同じような態度を彼に見せれば、こんなに鮮やかで解りやすい感情を見せてくれる。
「ありがとな、スコール」
そう呟き、彼の居なくなったベッドにちゃっかりもぐりこんでお邪魔する。こうしていればまた拗ねるなり、怒るなり、様々な感情を見せてくれるだろう。
今日はプレゼント代わりにそうやって過ごすのも悪くなさそうだ。
そんな事を思いながら、スコールが来るであろう時間まで悪戯気分でまどろむ事にした。

大晦日の大統領官邸。
後少しで年明けを迎えようとする頃、その執務室では部屋の主が机に突っ伏して仮眠を取っていた。
新年の挨拶を控え、慌しく過ぎる年末の日々に追われるままのラグナはこの日、とうとう自宅に帰ることを諦めた。
仕事を切りのいいところまで片付け、軽い食事を取り、後は執務室横に備え付けられている仮眠スペースでシャワーを浴びて寝るだけだが、その仮眠スペースに行く手前で睡魔に負けてしまった。
と、ふわりとあたたかな毛布が掛けられる。
「スコール・・・?」
いつの間にか自分の横に立ち、手にしていた毛布を自分に掛けてくれた青年を、眠い目をこすりながら見上げれば、
「エルオーネに呼ばれたんだ」
と、ぽつりと聞いていない返事が耳に届いた。
そういえば。
(昨日からスコールが家に帰ってきてたんだった。)
「エルに?」
「おじ様の面倒をみてやって、だと」
多分、なかなか執務室から出られない状況を知り、普段すぐに会って話が出来る状況ではない二人を思い、エルオーネが気を利かせてくれたのだろう。
「そっか・・・」
昨日からエスタに、自宅にスコールが居るのに、なかなか話をする事も、それどころかちゃんと顔を合わせる事も出来ない状況だった分、今のラグナにはちょっとしたご褒美のような気分だ。
「もう、仕事は片付いているんだろ?」
キロスから聞いてるぞ、と少しだけ心配の混じった声がラグナに尋ねる。このちょっとした穏やかな声だけでも十分ラグナの癒しになっている。
「ああ、後は新年の挨拶とか、って」
言葉を遮るようにスコールの目線が上を向く。そこにはすでに年越しを示す時計が。
「あ、もう年越してた」
「そうだな」
いつの間にそんなに自分はまどろんでいたのだろう。ようやく頭を起こしたラグナに、
「とりあえず今のうちに風呂入って寝ろ。起こしてやるから」
小さな溜息を言葉で隠すように、まるで子供に言うかのような口ぶりのスコールだが、ふいに、
「あけましておめでとう、ラグナ」
軽く髪を撫でるようにラグナに触れた手。珍しく皮手袋の無いその手の優しい動きと、掛けられた言葉に一瞬胸が詰まる。
こんな風に、穏やかな気持ちで年越しを迎えた事はあっただろうか。
年明け一番に大切な相手に心配されて、自分は今こんなにも幸せだと深く強くかみ締める。
「おめでとう、スコール」
自然にふわりとこぼれた笑みに、スコールもつられて微笑む。
口角を上げて、少しだけ目元の優しい笑みを浮かべる彼のもう片手を掴んで引き寄せる。
その動きにスコールも逆らう事無く自然に従い、ラグナに抱きしめられる。
軽くラグナの頭を抱き寄せるようにすれば、自然と背に回された腕が強くスコールを抱きしめる。
「もうちょっとだけこうさせて」
こんな風に、穏やかで優しい時間をもう少しだけ。
「今年もよろしくな」
今年も彼とこうして穏やかな時間を過ごしていけますように。
腕の中の彼のぬくもりを感じながら、そうラグナは願った。
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